イワナちゃん
魚を炙っていたら急に思い出した。
俺が自分の心の中でしか呼ばないあだ名をつけるマイブーム真っ盛りだった頃。
イワナちゃんと名付けた女子がいた。
その女子は魚顔だった。
ついでにからかわれたとき頻繁に
『そんなこと言わないでよー(笑)』
と言っていたのでイワナちゃん。
10代前半は女子との付き合い方が変わる時だった。
ファーストネームではなく苗字で呼ぶようになったり。
よく遊んでいた女子となんとなく疎遠になったり。
性を意識したり。
とにかく多感な時期で男子は男子、女子は女子の塊ができ、性別の壁を越えにくくなっていた。
イワナちゃんは壁を越えられる数少ない存在だった。
当時同じクラスに
ゴリラマンブーツ1号、
2号、
イグアナ、
クソ、
愛撫、
豚っ鼻、
大根
など酷いあだ名をつけられている女子が多数いた。
もちろん表立って言うと大問題に発展しかねないので裏で男子が勝手に呼んでいただけ。
そこそこ明るくそこそこ顔が整っていたイワナちゃんは相応の人気があったためかそんなあだ名は付けられていなかった。
イワナちゃんとはそこそこ仲が良かった(つもりだった)ので卒業後もメールで連絡を取っていた。
お互いの学校の事や身の回りの出来事を頻繁にやり取りした。
メールの文脈や送信されてくる写真からは楽しそうな日常が想像できた。
しかしあるときプツッと連絡が途切れた。
向こうも忙しいんだろうと思い、大して気にしていなかった。
しばらくメールはしなくなった。
その後イワナちゃんの近所に住んでいて彼女と一番仲が良かった女子とばったり会った。
彼女のことを聞くと学校を辞め、警察に補導され、逃げるように一家でどこかに引っ越したらしいという話をされた。
驚いた。
イワナちゃんの身に何が起きたのか。
全く分からない。
これからも魚を炙る度に彼女を思い出すんだろうか。
ちなみに最近のマイブームは
深夜、人とすれ違う時に
『明日死ぬとも知らないで…』
とつぶやくことです。
※
嘘です。
絶対に真似しないでください。